代表インタビュー

 

もしかすると突然、でも誰にも訪れる“最期のとき”。
そこにある全ての物が、誰かの大切な思い出の品

故人の住まいや遺品を整理し、人生の締め括りのお手伝いをする遺品整理。遺品整理や特殊清掃を専門に行う阪神遺品整理センターの代表・藤田さんは、「この仕事はとても尊い仕事だと思う」といいます。

ギターが好きでギター講師の職についていた藤田さんが、遺品整理・特殊清掃という仕事をするに至るまでにはどんなストーリーがあったのでしょうか。遺品整理・特殊清掃という仕事や、仕事のなかで起きた驚きのエピソード、仕事への向き合い方について、藤田さんにお話を伺いました。

文:コマツマヨ

遺品整理や特殊清掃は、突然やってきます。そして誰に起きてもおかしくないことなんです

「終活」や「生前整理」という言葉、ここ数年で耳にする機会がとても増えました。できれば生前に身の回りのものを片付けておければいいですが、ほとんどの場合は、ご本人が亡くなられたあとご家族によって遺品整理が行われるそうです。

「亡くなられたご本人の子どもさんや、甥・姪にあたる方からの依頼が多いですね。いざ自分たちで片付けをしようとしても、思い出の品々や遺品の多さにどこから手をつけていいのかわからず、プロに依頼されます。ご本人が亡くなられ、離れて暮らしていたご家族が片付けのために家に訪れた際に、家の中が荷物で溢れかえっていることを知り、困り果ててご依頼いただくといったケースもありますね」

遺品整理を専門に行う業者と不用品回収業者との違いは、一般の人にはなかなかわかりにくいもの。その違いについて藤田さんは、「依頼主さんのお気持ちを尊重しながら作業のお手伝いをする」といいます。

「どちらの業者も不用品を預かって処分することは変わりません。不用品回収業者の場合、ご家族の思い出の品物もゴミもすべて“不用品”という扱いになり、ゴッソリ運び出して処分をすることもありますが、私たちは“遺品整理”という部分で大きく異なります。ご家族の方々の生まれ育った家だったり、小さい頃よく遊んだ思い出の家だったりすると、一見不用品に見えるものも全てが思い出の品なんです。だから私たちは、残されたお荷物を、お客様と一緒にひとつひとつ確認しながら作業を進めます。ときには思い出に浸ったり涙を流されたりしますが、遺品整理にはそんな時間もとても大切なことだと思っています」

ギター講師から一転。代表・藤田が「遺品整理」のプロになったワケ

藤田さんが遺品整理や特殊清掃という仕事に就くことになるまでには、どのような背景があったのでしょうか。愛媛県出身、就職で大阪にやってきた若かりし頃の藤田さんは、現在の仕事とは大きくかけ離れた生活を送っていたそうです。

「実家が金属加工業を営んでいたので将来は会社を継ぐのだろうと漠然と思ってはいました。でも、『このまま愛媛に居続けるのは嫌だななぁ、もっと都会に出たいなぁ』という思いもあったので、一旦大阪の金属加工会社に就職することにしました」

都会に憧れて大阪に来たものの、会社にいたのは歳の離れた社員やパートのおばさんばかり。同年代の友達ができないまま数ヶ月経ち、高校卒業したての藤田さんは寂しくて寂しくて仕方がなかったそう。

「もう愛媛に帰ろうかな……と考えていたとき、たまたま訪れたアメリカ村の楽器屋さんで“ギター教室生徒募集”の張り紙を見つけたんです。実は高校生の頃からギターが趣味で、暇さえあればずっとギターを弾いていました。なんでもいいから人とのつながりが欲しいと思っていた僕は『これしかない!』と思いましたね。しばらく生徒としてギターを習いましたが、才能のある講師の方だったのでだんだんと教わるだけじゃ物足りなくなって、ついには『弟子にしてほしい!』と申し出ました(笑)」

こうしてギター講師のアシスタントに転職。数年後には師匠のもとをはなれ、ギター講師として独り立ちをします。生徒も増え、順調に仕事を続けていた藤田さんも結婚を考え始める年齢になり、この仕事では結婚や子どもを持つことは厳しいと感じてキャリアチェンジを考えます。

「ギター教室の生徒さんのなかに不動産会社を経営されている方がいて、関連会社に紹介していただき建売住宅の営業として再就職することができました。ここで身につけた住宅の知識は今の仕事にめちゃめちゃ繋がっているんですよ!」

まっさらな状態から家が建っていく工程を学んだ経験は、特殊清掃の仕事に大いに活かされている

人との縁で転職を重ねた藤田さん。当時30歳も半ばに差し掛かっての転職に不安もありましたが、不動産会社での経験は今の仕事にとても役立っているといいます。

「営業としてお客様に聞かれたことはすべて答えないといけないので、建物のことをめちゃくちゃ勉強しました。現場に頻繁に足を運んで大工さんや職人さんに直接質問したり、何もないところからどうやって家が建つのかを目で見て知ることができましたね。特殊清掃の場合、表面だけをきれいに掃除しても、壁や柱、床下まで染み込んだ汚れや匂いを取り去ることはできません。建物の構造や建材の種類、性質、内装の材料、設備関係や上下水道などあらゆる仕組みを知っていないと、再び人が住めるようになるまできれいにすることはできないんです。現場の状態を見ただけで汚れの種類や使用する薬剤や処置方法などを見極めないといけないのですが、このときの経験が今大いに役立っています。この経験がなければ、今特殊清掃の仕事はできていないかもしれませんね」

その後、事業縮小によってまたも転職を余儀なくされた藤田さんは、“便利屋”を起業するという目標を抱きます。

「実家が商売をしていたので、いずれは自分も……と考えてはいました。それが今だな、と。じゃぁ何をしようかと考えたときに、ふと“便利屋”というワードが頭をよぎったんです。直感ですね」

便利屋になろうと思ったものの便利屋の仕事について何一つ知らなかった藤田さんは、独立開業を目標に大手の便利屋に転職し経験を積みます。しかし、実際に独立したのは当初の予定よりも随分あとだったそうです。

「はじめはノウハウを盗んですぐ開業しようと思ったんです(笑)でも、やり始めたらとても奥深い仕事で……。遺品整理や事務所移転・引っ越し、いわゆるゴミ屋敷の清掃やなど、ただの片付けや手伝いではなく困っている人の悩みを解決する仕事なんですよね。作業が終わるとお客様からすごく感謝していただけて、ときには涙を流して感謝の気持ちを伝えてもらえるんです。『この仕事はなんて尊い仕事なんだ』と思いましたね。」

一度きりの仕事だからこそ、お客様のための努力と信頼関係でクレームゼロ。だけど、安すぎて断られたエピソードも!

「遺品整理や特殊清掃の依頼は、ほぼ一度限りのご依頼です。だからこそ信頼関係を大切にし、事前のヒアリングも細かく行ない安心してご依頼いただけるよう努めています」

満を辞して便利屋を開業。建築の知識や便利屋での技術・経験を生かし、遺品整理・特殊清掃事業を本格的にスタートさせます。お客様の負担を少しでも減らし、困っている方のサポートをしたいという藤田さんならではの仕事の形を見出して開業以来大きなクレームはないそうです。

「作業後『思った以上に荷物が多かったので追加料金がかかります』なんて言われたら、ただでさえ大変なときに精神的にも金銭的にもさらに負担がかかりますよね。当社は電話だけでの見積もりは行わず、必ず現場を確認してからお見積もりし、追加料金をいただくことのないよう心がけています。古物商許可も取得していますので、本当に不要なものと買取できるものを徹底的に分別し、買取ったものは費用から差し引かせていただきます」

お葬式などなにかと出費がかさむなかで少しでもお客様の負担を減らしたいと、リサイクルや適正価格でのお見積もりにこだわる当社。ですが、過去には“安すぎて依頼を断られた”という驚きのエピソードもあるそう。

「すでに2〜3社見積もりを依頼されていたお客様から、相見積もりでのご依頼をいただきました。うちは価格に自信があったので、ご満足いただけるお見積額を出したつもりでいましたが、後日『今回は見送らせていただきます』というお返事が。理由をお伺いしたら“安すぎて不安だから”とのことでした」

阪神遺品整理センターでは、実際の現場に足を運び、どのような品物がいくつあるのかを細かく確認し、品物ごとの処分費用を計算し見積もりを出します。しかし、遺品整理業者によっては“1立米あたり〇〇円”という計算方法をとっているところもあるそう。部屋の広さで考えれば同じでも、大型の家具や金庫がおいてある部屋と衣服や布団ばかりの部屋では処分費用に大きく差が出ます。こうした部分で、他社との見積もり額に大きく差が出たようです。

「他社のお見積もりが当社より軒並み高額だったので、おそらくお客様のなかですでに遺品整理の費用相場が出来上がっていらっしゃったのでしょう。当社の見積もりに逆に不安を感じられ“安すぎる会社はやめておこう”ということになったようです。安すぎてお断りされたのは後にも先にもこの1回だけですね(笑)」

表面的な清掃では取り去れることができない汚れや匂い。だからこだわる「完全消臭保証」

自殺や孤独死があった部屋の強烈な汚れや匂い、害虫など、一般のハウスクリーニングでは対応できない現場の清掃し、再び人が住めるようにする「特殊清掃」。汚れがひどい部分を処理し、人が安全に立ち入れるような状態になるまで部屋全体を清掃してから遺品整理を行い、部屋の中を何もない状態まで片付いたら、特殊な薬品を使って汚れや匂いが完全に亡くなるまで清掃・消臭を繰り返します。

「孤独死や自殺、動物による汚れというのは通常の汚れと違い、壁や構造、床下まで染み込んでいる場合もあります。こうした汚れや匂いを取り去るためには、汚れの種類に加え、汚れた箇所の構造や材質を見極めて最適な処理方法を行わないといけません。過去には、人だけでなく猫の多頭飼育崩壊の住宅や鳩の住処となっていた部屋の清掃を請負ったこともあります」

高齢化の影響などから遺品整理や特殊清掃の需要は年々増加し、それに伴って遺品整理や特殊清掃を請け負う業者も増えているそう。しかし、人が亡くなったあとや動物による汚れを扱う特殊清掃は、一般的な知識でできるような簡単な仕事ではありません。悪質な業者のだと、表面的な清掃と消臭剤を置いただけで、『汚れがひどくて完全に処理できませんでした』といって終えてしまうこともあるそうです。

「せっかく業者に頼んだのに『完全にきれいにできませんでした』と言われてしまっては、別の業者を探して再度依頼しなければなりませんよね。急な事態にただでさえ混乱していらっしゃるところに、金銭的・精神的にさらなる負担がかかってしまいます。そのようなことは絶対に避けたい。だから当社は、完全に匂いが消えるまで徹底的に処理を行う“完全消臭保証”をお約束しています。特殊清掃の現場や建物、汚れの性質を熟知し、あらゆる現場を経験してきたからこそできる当社の強みのひとつです」

将来、この仕事が無くなっていけばいい

時代の流れに沿って増えてきた、遺品整理や特殊清掃という仕事。業界の将来について伺うと、意外な答えが返ってきました。

「将来的に、このような仕事がなくなればいいのにと思いますね。やはり自殺や孤独死といったものはできるだけ減ったほうがいいと思うから。多くの人がやりたがらない特殊な仕事でもありますが、誰かがやらないといけない仕事。日本という文化的な背景もあって完全に無くなるのは難しい。だったら今は僕がやろうかな、と。だって、もし僕が誰かにこのような仕事をやってもらったら、きっと感謝しかないと思うから」

文:コマツマヨ